熊が来た。
先日内に熊が来た。
熊といっても、熊さんという名前のじいさんが来たのだった。
70代だ。
この老人は若い。が、酒飲みだ。
あった時から酒の匂いがした。
しかし、ピースボートで世界を二周していて妙にオープンだ。
日本人的ではない開けっぴろげな図々しいまでのフレンドリーさを持っている。
この日は東北の松島から新幹線で我が家に近い大磯駅まで来た。
長旅だったろう。
あってそうそうビールを買いに行けということで薬局へ。
相変わらずの変人だがなぜか憎めない。
たまに妙に哲学的なことをいったりする。
それもチベット仏教的にだ。
と、ようわからんじいさんだが再会したのは実に四年ぶりで、前回は初めてワーホリでフランスに行く前に開催した名古屋での個展に来てくれた時だった。
再会するなり、脈絡のない話で酒を飲む。
持参した竹を切っただけの自作のピッチャーを持ってきて、そこにみかんを入れて、ビールを注いで飲む。
けっこう風流だ。
土産には、古いブランデー。
そして竹ずみの入っているフクロウの置物を三つをくれたのだった。
この日は娘のお食い初めという、一生食べ物に困らないようにという願いをこめた昔ながらのお祝いを自宅でささやかにやった後だったので、竹と、フクロウとは縁起がいいなと思った。
そんなじいさんと二日間に渡りよく歩いた。
平塚駅から海まで出て、海沿いを花水川河口まで。
きらきらと光る海を見ながら、重い砂浜を軽やかに歩いた。
サーファーを見たり。波を見たり。
釣り人と話したり、石を拾ったり。
このじいさんは毎日2万歩を心がけているらしい。
距離にして14キロほどだ。
つられて俺も歩きに歩いた。
パリから日本に帰ってきてからは随分歩く距離も減っていたので、良い機会だった。
パリでは移動手段として本当によく歩いた。
道も覚えるし、気分転換にもなる。
メトロと組み合わせれば最強だ。
ところが日本では、車に乗ることが増え、体もなまっていた。
歩けば発見がある。
家の裏にある高麗山を少し歩いて黄色い葉っぱを踏みながら山茶花を見て、湿った空気を感じる。
大磯町を歩き、古い邸宅や、日本家屋に心を踊らせる。
道行くおばちゃんにみかんをもらって話したり。
こんな余裕が楽しかった。
きづけば忙しい顔して早歩きの日々を過ごしていることもある。
日常がルーティーン化して繰り返しのように感じたら歩いてみよう。
必ず発見がある。
最後に熊は小田原へ旅立った。
その後愛知県の知多半島まで帰るそうだ。
see youといって熊は帰った。
久々の酒に体も心も暖かかった。